ダイヤモンド 買取の見せ所

書き下ろしでないものは、雑誌で原稿料をもらっているのだから、「700万部突破記念パーティー」)《原稿料の基準は、400字詰め原稿用紙で、小説雑誌では、1枚だいたい4000円17000円くらい。 小説以外の週刊誌、月刊誌などでは、1万円やそれ以上のところもある。
新聞はさらに高い。 〔中略〕こうして書くと、非常に良い商売みたいに思えるが、そんなに簡単だったら、みんなやっているだろうから、どこかに難しさがあるのだと思う。
それをこれから発見していきたい。 》(岡、日月4日「原稿料と解説」)ひとを食った文章だ。
ヘルマン・ヘツセの小説『シッダールタ」の解説によれば、『シッダールタ』は《ドイツ版が1970年までに通算4万部に達し、ヘッセの作品中のベスト5に入る》とあり、それを引用したMさんは、驚いている。 ちなみに、「書いて稼ぐ」をピジネスの基本だと考えてみる9219《ドイツの人口は日本よりは少ないものの、刊行年は1922年であり、印年間の通算である。
大文豪もそれくらいしか読まれていないのか。 部数といえば、今回の『レタス・フライ』は初版で6万5000部だ》Mさんの処女作にして最もよく売れた「すべてがFになる』はノベルスと文庫をあわせると44万部を超えている。
ヘッセを凌駕しているとはいえ(笑)、ミリオンに1点も達しなくても、あんな優雅な生活が送れるとは、こちらも嬉しくなってくる。 夏目激石の小説はたいてい初版3000部から4000部だった。
それに比べれば現在のほうがよっぽど「ありがたい」時代だと言えるだろう。 工学的かつ文学的な才能に恵まれた作家が覗けて、とても刺激的な日記なのだが、ここでは主として原稿料と印税にスポットライトをあてて引用してみた。
最後に、こんな1文はいかがだろう。 《デビューした年に、大学の給料の倍の額の印税をもらった。

次の2年で、大学にあと初年間勤務してもらえる給料の総額くらいを稼いだ。 さらに次の2年で、一生かかっても使い切れない額を得たと思う。
だから、この時点(5年まえ)に既に仕事をする必要はなくなったのだが、その後も仕事を続け、収入は増え続けた。 《(成功した人たちを指して)一般に、「あいつら、金儲けのためにやっているのだ」と陰口をたたく人間の方が、むしろ自分だけのための金儲けに必死だ、ということにお気づきだろ、っか。
》(同前)M博嗣さんは国立大学の現役助教授だったが、2OO5年3月に退職なさった。 のなか《稿料の話をすると、ぼくが文春を辞めて、はじめて原稿料をもらうようになった頃、匿名原稿だとせいぜい400字1枚200円台です。
ぼくが文春を辞める頃の給料が約2万円ですから、百枚書いて給料分だった。 辞めたときの退職金が4万円で〔中略〕、辞めてしばらくして署名で原稿を書くようになったけど、それでも1枚300円台です。
小説家の先生の場合、小説でなくてもルポでも雑文でも、我々は基本的にアゴアシ(食事代と交通費)と日当だけですが、作家の先生を派遣してルポを書いてもらうとなると、これまたケタちがいの取材費が出た。 》文春を辞めた直後にすぐ生活が困窮してしまい、そこでリクルートの求人情報誌を頼ってコピーライター的な原稿を書き、《ジャーナリズムの仕事よりいい収入になりました》ともある。
T花さんが文春を辞めたのは1966年(当時26歳)のこと、雑誌に署名原稿を書くようになって、井尻正二さんに不勉強を「こっぴどく叱られる」のは197O年のことだ。 T花さんのその後の原稿料事情については、すでに『売文生活」の第4章「トップランナーたちの憂欝」に書いた。
最近のT花さんは媒体によって1枚50円から3万円の幅でもらっているわけだが、若いころの《匿名原稿だとせいぜい400字1枚200円台》というのは、実に恐ろしいことだった。 当時すでに1枚6000円以上もらっていた小説家が少なからずおり、25歳ごろの月給が2万円とすれば、今ならその1O倍と単純計算して4OO字1枚あたり2000円台ということになってしまう。
T花さんは、小説(フィクション)より非小説(ノンフィクション)のほうがずっと格下だという意識から抜けられなかった、とも告白している。 明治や大正や昭和の文学を読んでいたら、そんな勘違いはしなかったはずだが、本当にご苦労様でしたと申し上げるしかない。

「脚本家あがりに対する風当たりが結構強い」N沢尚氏ドラマの脚本家として注目され続け、2OO4年に自死したN沢尚さんの『烈火の月」「書いて稼ぐ」をビジネスの基本だ1ーと考えてみる。 深作監督と築き上げた2本の映画脚本がボツとなったことも、小説に向かわせる大きなきっかけになった。
「あなたなら新人コンクールに応募しなくても出版できるでしょう」と何人もの人に言われたが、即出版より、野に出て力を試したい、という思いが勝った。 三度目でやっと賞に届いた。
》(『烈火の月」「単行本のためのあとがき」)痛々しくないだろうかN沢さんと同じく小説と脚本を手がけるT野和明氏が、こう書いていた。 《ある雑談の席で、前から抱いていた疑問について尋ねたことがある。
「小説だけで行こうとはなさらないのですか?」するとN沢さんは苦笑混じりに、「小説だけじゃ食べていけないからね」と答えた。 「それに小説の世界は、脚本家あがりに対する風当たりが結構強い」ともこほされていた。
風当たりが強いか強くないか。 これらは主観であり、相対的なものだ。
この日本で「食えない」と言っても、本当に餓死するわけではない。 それに、すでに他分野で年5000万円を稼いでいる人が「小説だけじゃ食べていけない」と言うのと、駆け出しの新人小説家がそう言うのとでは、だいぶ実相が違う。
「脚本家あがりに対する風当たり」についても、そういう言説がまったくなかったわけではないだろうが、気にしすぎたのではないかと思えてならない。 1年間におよぶ「週刊。
ホスト」誌での連載小説を2カ月で書き上げたと記したあとで、N沢さんは《同じ「ポスト」誌上で小説を書こうとされていた乱歩賞の先輩作家からは、「そういう連載小説の書き方をされるとこっちが困る」と叱られたものだ》とも書いている(『烈火の月』)。 やゆ先輩からのそういう榔撒があったとしても、相手はそんな愚痴を言ったことすら覚えていないのではないか。

先輩作家は、ただの自己卑下だったのかもしれない。 「乱歩賞作家」だとか、「脚本家あがり」だとか、どうしてそういう肩書きや経歴にこだわったのか。
さぞ辛かったことだろう。 T野さんの解説は、こう続く。
「書いて稼ぐ」をビジネスの基本だと考えてみる。 《すでに三つの文学賞を受賞されていたN沢さんが、「食べていけない」というのは意外だった。
私はまだ、出版界の実状を知らない駆け出しの新人だったのだ。 その後分かったのは、小説家が儲かる職業というのは迷信だということだった。
編集者から直に聞かされたのは、1年間にデビューする五百人の新人作家のうち、生活していけるのはわずか五人、その中で人並み以上の暮らしができるのはたったの1人という惨状である。 》(同前)私のメルマガや「売文生活」をお読みいただいた方はすでにご存じのとおり、5OO人というのは1年間に日本で行なわれる新人賞の受賞者数であり、このような計算をしたのはM村誠一さんである(「作家の条件」講談社)。

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